カンボジアの進出には「通常の投資案件」「経済特区内の適格投資案件(Qualified Investment Project, QIP)」「それ以外の場所で実施される適格投資案件」の3種類があります。この種類により、所轄の審査期間が異なります。進出形態には「現地法人」「駐在員事務所」「支店」「パートナーシップ」「事業協力契約」「個人事業主」がありますが、QIPの適用は「現地法人」のみとなります。
営業開始までの流れ
(1) 進出の決定 <場所・形態・称号・業務内容等> |
(2) 法人登記申請 <商業省> 2週間〜2ヶ月程度 |
(3) 事業登録およびVAT登録(パテント) <税務総局> 1〜2ヶ月程度 *法人登記完了後2週間以内 |
(4) ライセンス申請 <監督省庁> 1〜12ヶ月程度 |
(5) 事務所開設申告・労働許可証取得・従業員登録 <労働職業訓練省> 1〜2ヶ月程度 |
(6) 営業開始 |
現地法人 (Private Limited Liability Company)
現地法人の形態は原則的に有限責任会社となります。これはカンボジアに投資する際、最も多く用いられる形態で、多くの場合は海外親会社の子会社として設置されています。 カンボジアにおいては、外国人または外国企業の100%出資により有限責任会社を設立することが可能です。 外国人または外国法人が51%以上の出資を行っている場合には、当該現地法人は「外国法人」、50%未満の場合には「内国法人」と定義されます。土地の取得および、一部の不動産の売買を行うことができるのは、内国法人に限定されます。
称号 | 固有の称号を設定することが可能です。 類似称号と見なされる場合は商業省より認可がおりない可能性がありますので、事前に類似称号の調査が必要です。 |
資本金 | 1株あたり額面4,000リエル以上で、最低1,000株を発行する必要がありますので、最低資本金は4,000,000リエル(約1,000US$)となります。 商業省は5,000US$以上を推奨しており、法律と運用の乖離に注意が必要です。 |
責任範囲 | 有限責任であり、株主の責任は各自出資した資本金の範囲に限定されています。 |
所在地 | カンボジア国内の住所を商業省および税務総局に登録す必要があります。 |
取締役 | 非公開有限責任会社の場合は1名以上、公開有限責任会社の場合は3名以上の取締役を任命する必要があります。 取締役は、自然人である必要がありますが、国籍や居住地に関する制限は存在しません。 取締役会議は少なくとも3ヶ月に1度開催することが法律によって義務づけられています。 |
課税対象 | 法人税、源泉徴収税、個人所得税、付加価値税(VAT)が課税対象となります。 |
駐在員事務所 (Representative Office in Cambodia)
駐在員事務所は、主に本国の親会社との業務関連連絡および情報収集を目的として設置されます。
国内で商品の売買やサービス提供、生産・建設活動など、営業活動を行うことは認められていません。その業務は市場調査の実施、展示会の開催などに限定ており、現地従業員との間の雇用契約、賃貸借契約、水道光熱費の契約等を除く契約の主体になることはできません。
駐在員事務所は、課税対象となる事業活動が認められていないないので、法人税の課税対象にはなりませんが、従業員給与に対する個人所得税、各種源泉徴収税および年間事業税に対する課税は行われますので、毎月の税務申告が必要になります。
所在地 | カンボジア国内の住所を商業省および税務総局に登録す必要があります。 |
駐在員事務所名 | 親会社の称号と同じである必要があり、親会社の称号の前に「Representative Office」という名称を入れる必要があります。 |
事業内容 | 市場調査、宣伝活動、連絡業務に限定されています。 雇用契約、賃貸借契約、水道光熱費の契約を除き、全ての契約の主体となることはできません。 |
納税義務 | 対象外:法人税 課税対象:個人所得税、源泉徴収税、年間事業税 |
支店 (Branches)
支店は、独立した法人格を有しておらず、債権債務は本国の会社に直接帰属することになります。外国会社支店の権利能力は、カンボジア法令により外国企業に対して禁止されている行為を行わない限り、他の企業と同様に定期的な物品の販売、製造、加工やサービスの提供を実施することができます。課税に関しては、原則的に現地法人と同様の課税義務を負います。
所在地 | カンボジア国内の住所を商業省および税務総局に登録す必要があります。 |
駐在員事務所名 | 親会社の称号と同じである必要があり、親会社の称号の前に「Branch」という名称を入れる必要があります。 |
事業内容 | 現地法人と同様の権利能力が認められます。 |
納税義務 | 現地法人と同様の納税義務を負います。 |
現地法人ではなく、支店設立の場合設立の場合下記の点が異なります。
・支店設立の場合、定款の作成が不要。資本金の振込が不要。
・支店は取締役会等の実施義務はなく、本国親会社の判断および決定に従う。
・独立した法人格を有しておらず、債権債務は本国の親会社に直接帰属する。
パートナーシップ (General Partnership Company)
パートナーシップは、医者、弁護士、会計士など、専門家に適した会社法上認められた形態です。パートナーシップは複数の関係者間の契約で、一般パートナーシップと限定パートナーシップの2種類が規定されています。日本の会社法における合名会社が一般パートナーシップ、合資会社が限定パートナーシップに近い概念となっています。
① 一般パートナーシップ
一般パートナーシップは、2 名以上の自然人または会社が事業を営むために一般パートナーシップ契約を締結することにより成立します。各パートナーは共同出資者として利益を共有し、事業運営を実施することかができ、パートナーシップの債務について無限責任を負います。
なお、パートナーシップ契約は口頭でも書面でも成立するため、法律書類は特に必要ではありません。
②限定パートナーシップ
限定パートナーシップは、1 名または複数の一般パートナーと、同じく 1 名または複数の限定パートナーとの間において、パートナー契約を締結することにより成立します。一 般パートナーは、パートナーシップを運営し拘束されるのに対して、限定パートナーはパートナーシップの資本充実に対してのみ拘束を受けます。つまり、限定パートナーは、出資に応じた金額又は資産価値を限度として、責任を負うに留まります。限定パートナーは、その出資分に応じて利益を受け取り、債務に関しても出資金額もしくは資産価値を限度としてのみ責務を負います。
なお、パートナーシップについては、実務上利用されるケースはあまり多くありません。
事業協力契約(Business Cooperation Contract)
事業協力契約は、カンボジア政府または公的機関と共同事業を行い、その事業に出資する代 わりに利益配分を受ける形態をいいます。新たに法人を設立する形態ではなく、事業活動から 収益を分け合う形態となります。
カンボジア国内の事業協力契約については、数事例認められています。
個人事業主 (Sole Proprietor)
カンボジアでは法人等を設立せずに商業省での個人事業主の登録が認められています。
特徴としては、法人登記より手続が簡便で、申請費用も相対的に低額に設定されていますが、法人とは異なり、登録者本人の無限責任になりますので、注意が必要です。個人事業主でも毎月の税務申告が必要で、税率等は法人(Private Limited Company)と同じです。
長所 | 必要書類が最小限で済み、設立は迅速で簡単。 個人事業者が全ての経営上の決定を行うことが可能。 |
短所 | 事業の負債と責任に対して無限責任を有する。 すなわち、事業の負債を清算することができない場合には、事業者個人の資産を失う可能性があります。 個人名での登録となるため、代表者の変更はできません。 |
なお、カンボジアでは「個人事業主=商業省への登録なし」と勘違いされて事業を始められる方もいらっしゃるようですが、個人事業主であっても株式会社同様に商業省への登録が必要です。また、飲食店のライセンス取得に際しても商業省発行の登録証が必要になっています。